日本歴史学協会に対する訴訟提起について

私に対する名誉毀損への対応について、本日、日本歴史学協会に対し民事訴訟を提起したので、ご報告いたします。

 

日本歴史学協会は、令和3年4月2日、「歴史研究者による深刻なハラスメント行為を憂慮し、再発防止に向けて取り組みます(声明)」と題する声明を公開しました。そこには、「今般、日本中世史を専攻する男性研究者による、ソーシャルメディアSNS)を通じた、女性をはじめ、あらゆる社会的弱者に対する、長年の性差別・ハラスメント行為が広く知られることとなりました。」との記載があり(傍線・太字は私によるもの)ます。

この記述は、私が、Twitterにおいて、あらゆる社会的弱者に対してハラスメント行為(差別行為)を長年継続していた事実を摘示し、私を糾弾したものです。

私は、既に公に謝罪している通り、北村紗衣准教授に対して複数回、誹謗中傷をしてしまいました。また、女性一般に対する不適切な発言があり、これが「女性差別・女性蔑視的」と評価されることも理解していますし、深く反省しております。

 

しかし、私が「あらゆる社会的弱者に対する長年のハラスメント行為」をしたという日本歴史学協会の宣言は、事実ではなく、名誉毀損と言わざるを得ません。

私は、本件声明を最初に読んだとき、私のどの発言が指弾されているか理解できませんでしたし、日本歴史学協会から、身に覚えのない重大な弾劾を受けている事実に恐怖を感じました。

 

日本歴史学協会は、私に対する令和4年3月15日付けの回答書で、以下の投稿が「あらゆる社会的弱者に対する長年のハラスメント行為」にあたると、主張しています。

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日本歴史学協会の主張の集計

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日本歴史学協会の主張の一覧①

日本歴史学協会の主張の一覧②

 

けれども、日本歴史学協会の主張(女性関係以外)を見ると、何をもって差別と主張しているのか理解できないものばかりです。

例えば、著名なベテラン歴史研究者(教授)への批判を「立場の不安定な研究者」に対するものと強弁しています。また、ポリティカル・コレクトネスに何か批判的なことを言えば、それは全て差別にあたると考えているかのようです。

加えて本件声明は、あらゆる社会的弱者」に対するハラスメント行為があったとしています。仮に、上記主張がハラスメント行為・差別にあたったとしても、とてもあらゆる社会的弱者」をカバーしているとはいえません。例えば、性的指向、宗教、信条、年齢、学歴・職歴、身体的特徴、障碍、病歴、犯罪歴、犯罪被害歴といった、一般に差別の対象と考えられている属性について、日本歴史学協会は私の差別発言を指摘していません。

 

差別的言動解消法が制定され、差別的言動(ヘイトスピーチ)には、強い批判が向けられ、社会的に許容されないことが明確になっています。そのような社会状況において、日本歴史学協会は、一私人の言動を文脈から切り取り、恣意的に差別とみなし、反論の機会も与えずに一方的に弾劾しました(しかも、どの発言が対象かさえも示しませんでした。)。驚くべきことに、これは私人のネット上の放言ではなく、日本歴史学協会の公式声明です。私が知る限り、日本歴史学協会は、公人に対してさえ、特定個人を非難するような声明を過去に出したことはありません。

これは、日本歴史学協会という社会的権力による表現の自由への重大な侵害であるとともに、差別概念の濫用であり、差別解消に向けた社会の努力を冒瀆するものと言わざるを得ません。

 

日本歴史学協会は、歴史学という研究分野の、学術団体の連合組織として、社会的に高い権威を持っています。そのような団体の公式声明は歴史学界の総意とみなされます。過去の事実を明らかにすることを日々の営みにする歴史学界の声明は、厳密な調査によって明らかにされた事実に立脚していると社会から認識されるはずです。その声明の中に事実無根の重大な誹謗中傷が含まれており、しかも無期限で公開され続けています。この事態を看過しては私の社会的信用は失墜し、研究者生命は失われかねません。

私は過ちを犯した人間であり、批判は真摯に受け止めるつもりです。けれども、このような根拠のない重大な名誉毀損を受忍することはできません。

日本歴史学協会という学術的権威との訴訟により、論文投稿や科研費申請などに際して、様々な有形無形の不利益を被ることになるのではないかと不安に思っています。しかし、日本歴史学協会代理人は、上記の主張を開示した以外は一切の対話・交渉を拒絶し、「今後、重ねての問い合わせ、議論には一切対応しませんので、早急に訴訟提起して頂ければ幸いです」とまで宣言しています。法廷闘争は私の望むところではありませんが、私の研究者生命を守るためには、裁判所の公正な判断を仰ぐ以外の選択肢がありません。

日本歴史学協会が、訴訟でどのような主張をするのかは不明ですが、「呉座は様々な弱者に酷い発言をしていて、それを我々がハラスメント(差別)と考えた。確かに文字通り「あらゆる社会的弱者」ではなかったかもしれないが、そんなことは小さな問題だ。呉座のやったことは重大で、そう評価されて当然だ」と言うかもしれません。世間一般の人々は、「学会声明は学界のコンセンサスであり、そこに書かれている事実は正確である」と期待します。もし、細かいことは気にせずに、根拠のない恣意的判断が「事実」であるかのごとく書かれているとしたら、誰が学会声明を真剣に受け止めてくれるでしょう。本件では、私の名誉と同時に、日本歴史学協会が学会声明の信用性を地に堕とすかどうかが問題になっています。

 

なお、既に報告申し上げた通り、オープンレター差出人のうち12名との民事訴訟が係属しています。私は、2月15日に日本歴史学協会に、2月17日にオープンレターの差出人のうち17名に対し、通知書を送りました。オープンレターに優先的に対応したというわけではなく、オープンレター差出人のうち一部が私に対し訴訟を提起したため、結果として、先行して訴訟が係属することになったものです。

上記訴訟の原告以外の差出人に対しては、円満な解決に向けて、合理的な対話を呼びかける努力を継続していく予定です。

 

【4月12日附記】若干の誤記がありましたので、訂正します(11、21、26、28)。

・11 「その辺が」→「その辺りが」

・21 「公表」→「好評」

・26 「みんなも遠慮せず女装」→「みんなも遠慮せずに女装」

・28 「マスコミがその辺りを全然報じない」→「マスコミがその辺りを報じない」

なお、2と8が重複しているのは、原回答書の通りです。