オープンレター差出人からの10万円の支払いについて

昨日、5月13日にオープンレター差出人の一部との債務不存在確認訴訟(令和四年ワ4634)の第1回期日が行われました。その際、裁判所から、私がオープンレター差出人の一人から10万円の支払いを受けたことについて言及がありました。この情報を受けて、誰が10万円を支払ったのかがTwitter上で話題になっています。

私としましては、訴訟になっておらず、かつ和解が未成立のオープンレターの差出人4名との合理的な紛争解決に向けて努力を継続していく予定です。「誰が謝罪したのか」といった詮索や憶測は今後の和解を阻害する恐れがございますので、お控えいただければ幸いです。

拙著『戦国武将、虚像と実像』の紹介

先日、角川新書から拙著『戦国武将、虚像と実像』を発表させていただきました。

試し読み で読めます「はじめに」から分かりますように、日本における排外主義的・歴史修正主義的な言説の広がりに対して私は前々から憂慮しておりました。歴史学界の権威主義実証主義マウンティングによって歴史修正主義を叩く、という手法が通用しないことは現実が証明しています。

歴史修正主義的な言説は、歴史的事実の捏造・歪曲や史料的根拠のない奇説・珍説に支えられています。これは、提唱者が独自に想像を巡らせ妄想を書き連ねているように見えますが、実は、その内容は江戸時代の講談・軍記物に影響を受けていたり、徳富蘇峰司馬遼太郎の焼き直しだったりします。「根拠は弱いかもしれないが、斬新で独創的で面白い」と一般読者が思う「新説」「逆説」は、実証性どころかオリジナリティすら欠いていることが少なくありません。

本書の狙いは、史実ではない「虚像」「小説」がどのように形成され、人口に膾炙していったのかを解明することです。

 

歴史修正主義を克服するには、どのようなアプローチが有効なのか。本書は、以上の問題意識に基づく、私なりの中間報告です。私を「歴史修正主義者」であると思っている方にも、ぜひご一読いただき、その上でご判断いただければ幸いに存じ上げます。

 

gendai.ismedia.jp

拙著ダイジェスト

 

kadobun.jp

安田峰俊氏による書評

戦国武将、虚像と実像

 

反訴の提起について

オープンレターの差出人のうち12名が、私を被告とした債務不存在確認訴訟を提起したことについては、既にご報告した通りです
この度、上記12名に対し、100万円(1人当たりではなく総額)の損賠賠償の支払いと謝罪広告を求める反訴を提起しました。
この訴訟では、オープンレターの以下の記載が名誉毀損にあたるかどうかが問題になっています(下記2項はオープンレターからそのまま引用、敬称略)。

①「呉座氏がツイッターの非公開アカウントで過去数年にわたって一人の女性研究者(このレターの差出人の一人である北村紗衣)に中傷を続けていたこと……が明るみに出た」
②「呉座氏自身が、専門家として公的には歴史修正主義を批判しつつ、非公開アカウントにおいてはそれに同調するかのような振る舞いをしていたことからも、そうしたコミュニケーション様式の影響力の強さを想像することができるでしょう。」

(引用終わり)

①については、私が北村准教授に対して不適切な発言をしていた期間は、1年に満たないものであり、問題のある投稿は数点にすぎません。「数年にわたって……中傷を続けていた」という記載は、明らかに事実ではありません。原告らは、私が北村准教授から抗議を受けたこともない、何ら問題のない投稿を、「中傷」であると強弁しているのです。

図表1

 

②については、原告らは、歴史修正主義についての記載は、3件の投稿と6件の「いいね」を前提とした論評であり、投稿・「いいね」が真実であるから問題ないと主張しています。また、原告らは、歴史修正主義という言葉を「歴史に関する定説や通説を再検討し、新たな解釈を示すこと」として中立的に使用する場合もあるので、必ずしも私の社会的評価を下げないとも主張しています。

 

しかし、上記投稿や「いいね」は、そもそもオープンレターに書かれていません。オープンレターは具体的根拠を示さず、私が「歴史修正主義に同調するかのような振る舞いをしていた」と指弾したのです。しかも上記投稿は公開アカウント時代のもので、「非公開アカウントにおいて」というオープンレターの記載の根拠にはなり得ません。

そうすると、オープンレターの「歴史修正主義」うんぬんの根拠は、私がメモ代わりに「いいね」した他人のツイートしかないのです。私は、合計約7万件、1日に数十件の「いいね」をしており、多くのツイッターアカウントがそうしているように、必ずしも賛同の意味で「いいね」していません。しかも、オープンレターでは、私がTwitterでの「戯画化」「掛け合い」により歴史修正主義に同調したとしているのですが、そもそも上記投稿や「いいね」は、そのようなやり取りでなされたものではないのです。
オープンレターの記載に根拠がないことは明らかです。

 

図表2

また、これら投稿・「いいね」は全体の文脈の中で捉えると、いずれも歴史修正主義に同調するものではないことが分かります。

歴史修正主義」という言葉は、歴史学者にとって「学者失格」を意味する致命的な批判です。原告らの中には、歴史修正主義に関する著作がある方もいますし、彼らがそのことを知らないはずがありません。訴訟戦術でしょうが、「歴史修正主義」は価値中立的な言葉であり、私の社会的評価を低下させないという主張は、いくらなんでも非現実的で無理があると思います。

上記の他に、原告のうち、河野真太郎氏が、私が北村准教授に「セクハラ」をしたと投稿したこと隠岐さやか氏が、債務不存在確認訴訟は「悪質クレーマー」への対抗手段であるという記事を紹介して、私を悪質クレーマー扱いしたことについて、名誉毀損として、それぞれ22万円の損害賠償を請求しました。


また原告らは、債務不存在確認訴訟の提起に際し、「これは女性差別撤廃に対するバックラッシュ(反動)ととらえて、法的な手段で対抗せざるを得ないということで、提訴に至りました」「差出人・賛同人に対して繰り返されている謂れのない中傷がこのような動きを引き起こし、またそうした中傷自体、女性差別撤廃を目指す運動への反発の一環として生じているという認識のもと、法的な対抗措置を取ることを決断しました。」 と宣言しています。すなわち、原告らは、私が女性差別撤廃運動を妨害していると決めつけ、本訴訟を女性差別問題と位置付けています。

 

しかし私は、北村准教授に対する発言の中に許容できない中傷が含まれていることや、女性一般に対する発言の中に女性蔑視的・女性差別的と理解され得る不適切なものがあったことを認識しており、その点については公開で謝罪をし、北村准教授とも和解契約を締結しています。それ以降、私は過去の女性蔑視的・女性差別的な発言を正当化するような主張は一度もしていません。原告たちは、争点と関係ないにもかかわらず、私の女性蔑視的・女性差別的な発言をクローズアップし、本件訴訟を女性差別問題であると誘導し、私を反省のない女性差別主義者であるかのようにレッテル貼りをしているのです。

 

本訴訟の第1回期日は、5月13日に予定されています。
私としては、粛々と主張立証を重ねて、裁判所の判断により正当な権利の実現を目指していきます。

嫌がらせの手紙が届きました。

 

私宛ての嫌がらせの手紙が日文研に届きました。

嫌がらせの手紙(差出)

嫌がらせの手紙(消印)
東京都文京区本郷7丁目3−1は東京大学の所在地なので、偽の住所と思われます。
「中村」も偽名でしょう。
消印は「銀座郵便局」となっています(なお料金不足でした)。
 
このような手紙を送ることは、私はもとより、日文研に対しても迷惑になりますので、
慎んでいただくよう、お願い申し上げます。

日本歴史学協会に対する訴訟提起について

私に対する名誉毀損への対応について、本日、日本歴史学協会に対し民事訴訟を提起したので、ご報告いたします。

 

日本歴史学協会は、令和3年4月2日、「歴史研究者による深刻なハラスメント行為を憂慮し、再発防止に向けて取り組みます(声明)」と題する声明を公開しました。そこには、「今般、日本中世史を専攻する男性研究者による、ソーシャルメディアSNS)を通じた、女性をはじめ、あらゆる社会的弱者に対する、長年の性差別・ハラスメント行為が広く知られることとなりました。」との記載があり(傍線・太字は私によるもの)ます。

この記述は、私が、Twitterにおいて、あらゆる社会的弱者に対してハラスメント行為(差別行為)を長年継続していた事実を摘示し、私を糾弾したものです。

私は、既に公に謝罪している通り、北村紗衣准教授に対して複数回、誹謗中傷をしてしまいました。また、女性一般に対する不適切な発言があり、これが「女性差別・女性蔑視的」と評価されることも理解していますし、深く反省しております。

 

しかし、私が「あらゆる社会的弱者に対する長年のハラスメント行為」をしたという日本歴史学協会の宣言は、事実ではなく、名誉毀損と言わざるを得ません。

私は、本件声明を最初に読んだとき、私のどの発言が指弾されているか理解できませんでしたし、日本歴史学協会から、身に覚えのない重大な弾劾を受けている事実に恐怖を感じました。

 

日本歴史学協会は、私に対する令和4年3月15日付けの回答書で、以下の投稿が「あらゆる社会的弱者に対する長年のハラスメント行為」にあたると、主張しています。

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日本歴史学協会の主張の集計

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日本歴史学協会の主張の一覧①

日本歴史学協会の主張の一覧②

 

けれども、日本歴史学協会の主張(女性関係以外)を見ると、何をもって差別と主張しているのか理解できないものばかりです。

例えば、著名なベテラン歴史研究者(教授)への批判を「立場の不安定な研究者」に対するものと強弁しています。また、ポリティカル・コレクトネスに何か批判的なことを言えば、それは全て差別にあたると考えているかのようです。

加えて本件声明は、あらゆる社会的弱者」に対するハラスメント行為があったとしています。仮に、上記主張がハラスメント行為・差別にあたったとしても、とてもあらゆる社会的弱者」をカバーしているとはいえません。例えば、性的指向、宗教、信条、年齢、学歴・職歴、身体的特徴、障碍、病歴、犯罪歴、犯罪被害歴といった、一般に差別の対象と考えられている属性について、日本歴史学協会は私の差別発言を指摘していません。

 

差別的言動解消法が制定され、差別的言動(ヘイトスピーチ)には、強い批判が向けられ、社会的に許容されないことが明確になっています。そのような社会状況において、日本歴史学協会は、一私人の言動を文脈から切り取り、恣意的に差別とみなし、反論の機会も与えずに一方的に弾劾しました(しかも、どの発言が対象かさえも示しませんでした。)。驚くべきことに、これは私人のネット上の放言ではなく、日本歴史学協会の公式声明です。私が知る限り、日本歴史学協会は、公人に対してさえ、特定個人を非難するような声明を過去に出したことはありません。

これは、日本歴史学協会という社会的権力による表現の自由への重大な侵害であるとともに、差別概念の濫用であり、差別解消に向けた社会の努力を冒瀆するものと言わざるを得ません。

 

日本歴史学協会は、歴史学という研究分野の、学術団体の連合組織として、社会的に高い権威を持っています。そのような団体の公式声明は歴史学界の総意とみなされます。過去の事実を明らかにすることを日々の営みにする歴史学界の声明は、厳密な調査によって明らかにされた事実に立脚していると社会から認識されるはずです。その声明の中に事実無根の重大な誹謗中傷が含まれており、しかも無期限で公開され続けています。この事態を看過しては私の社会的信用は失墜し、研究者生命は失われかねません。

私は過ちを犯した人間であり、批判は真摯に受け止めるつもりです。けれども、このような根拠のない重大な名誉毀損を受忍することはできません。

日本歴史学協会という学術的権威との訴訟により、論文投稿や科研費申請などに際して、様々な有形無形の不利益を被ることになるのではないかと不安に思っています。しかし、日本歴史学協会代理人は、上記の主張を開示した以外は一切の対話・交渉を拒絶し、「今後、重ねての問い合わせ、議論には一切対応しませんので、早急に訴訟提起して頂ければ幸いです」とまで宣言しています。法廷闘争は私の望むところではありませんが、私の研究者生命を守るためには、裁判所の公正な判断を仰ぐ以外の選択肢がありません。

日本歴史学協会が、訴訟でどのような主張をするのかは不明ですが、「呉座は様々な弱者に酷い発言をしていて、それを我々がハラスメント(差別)と考えた。確かに文字通り「あらゆる社会的弱者」ではなかったかもしれないが、そんなことは小さな問題だ。呉座のやったことは重大で、そう評価されて当然だ」と言うかもしれません。世間一般の人々は、「学会声明は学界のコンセンサスであり、そこに書かれている事実は正確である」と期待します。もし、細かいことは気にせずに、根拠のない恣意的判断が「事実」であるかのごとく書かれているとしたら、誰が学会声明を真剣に受け止めてくれるでしょう。本件では、私の名誉と同時に、日本歴史学協会が学会声明の信用性を地に堕とすかどうかが問題になっています。

 

なお、既に報告申し上げた通り、オープンレター差出人のうち12名との民事訴訟が係属しています。私は、2月15日に日本歴史学協会に、2月17日にオープンレターの差出人のうち17名に対し、通知書を送りました。オープンレターに優先的に対応したというわけではなく、オープンレター差出人のうち一部が私に対し訴訟を提起したため、結果として、先行して訴訟が係属することになったものです。

上記訴訟の原告以外の差出人に対しては、円満な解決に向けて、合理的な対話を呼びかける努力を継続していく予定です。

 

【4月12日附記】若干の誤記がありましたので、訂正します(11、21、26、28)。

・11 「その辺が」→「その辺りが」

・21 「公表」→「好評」

・26 「みんなも遠慮せず女装」→「みんなも遠慮せずに女装」

・28 「マスコミがその辺りを全然報じない」→「マスコミがその辺りを報じない」

なお、2と8が重複しているのは、原回答書の通りです。